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氷室編しかない

先生のお気に入り(氷室編)

夏合宿



夏休みも後半分8月の第二週目、はば学名物夏合宿が、始まろうとしていた。

運動部、文化部、一斉に行われる夏合宿。

全部の部活が参加するわけではないが、各部活の顧問が望めば実行される夏合宿。
大会間近の運動部はともかくとして、文化部では氷室教諭率いる吹奏楽部くらいだった。

「何だよー、姉ちゃんいないと、飯どーすんだよ」
「仕方ないじゃない・・・これに参加しないと吹奏楽部をクビになっちゃうの。クビってことは学校辞めなきゃなんないんだよ」
合宿の支度をしていると、弟の尽が姉に向かって愚痴っている。

「あれ? 姉ちゃん、トランペット・・・」
「・・・、きっと吹く事できないと思うから、置いてく」
「何だよ・・・、好きな楽器も弾かせてもらえないのかよ・・・」
「そうね、、、先生が、フルートって言ってるんだから、いう事聞くだけだよ。タダで学校行かせてもらってるんだもん」
「姉ちゃん・・・」
「帰ったら、ストレス解消に思いっきり吹くよ。あんた、私の演奏会につき合わすからね」
「えー、かったりー」
悪態つきながらも尽は、姉の演奏の才能には驚いている。メロディを一度聴いただけで、大抵の楽器は奏でることができるのだ。
庶民の実生活には何の役にも立たないかもしれないが、時々羨ましく思う。
「ま、がんばれよ。俺、出掛けるからな」
「あんま、遅くなんないでよ」
相変わらず、どこで何をやっているのか、尽は家にいないことの方が多い。それでいて、成績はトップクラスにいるのだから、
姉と違って要領がいいのだろう。家事のこともやりたがらないが、教えればすぐ覚えるし、必要に迫られればある程度のことはできる。
が1週間近く不在でも、何とかするだろう。





さすが名門私立のはばたき学園、合宿ができるように施設も備品も揃っている。
たち吹奏楽部は、音楽室のある最上階の4階で主に活動することとなる。
大勢の生徒が寝泊まりできる、合宿所のような棟もあるのだ。

8月の猛暑の中、窓を全開にしていても室内は高温多湿だ。
吹奏楽部の部員たちは、流れる汗も気にせず、氷室の言う通りに黙々と練習をする。
理事長の絶対的な意向で、職員は全員クールビズを徹底されているので、夏場の氷室はノーネクタイでジャケットも着用していない。
ただ、彼の確固たる意志なのか、Yシャツは長袖のままで袖を折ったりは決してしていない。
クールな表情をしているが、額からは汗が流れていた。
は彼を見ながら、やっぱり人間なんだなぁと思った。


11月の全国吹奏楽コンクールの課題曲が発表された。目標は、10月末の県大会予選1位を目標とする。
予選を1位通過しないと全国大会には出場できない。
毎年、スパルタな練習と氷室のアレンジによる課題曲とフリー曲の演奏を行うが、はば学は未だ県予選を1位通過した事はない。
よくてベスト5以内といった所か。
先輩部員の話によると、夏のテスト後から冬のテスト前の時期までは、ストイックな顧問のピリピリ感は相当なものだから覚悟するように、
と、余り嬉しくない情報だった。

「ーー では、10分休憩とする」
かれこれ2時間以上は、演奏練習をしている。
、ちょっと来なさい」
「・・・はい」
長い脚を組んで座る彼はを見下ろす姿で、は彼の目の前に立つ。
「君には協調性が足りない。君、個人ならその演奏でいいだろう、だが、団体で演奏する以上、
周りに合わせなければ美しいハーモニーなど実現できるわけがない」
「はぁ・・・」
とすれば、言われた通り一遍に演奏しているつもりだが、ましてや今回の曲はフルートがメインになっていない。
(・・・彼女に当たっても仕方のない事は解かっている・・・。だが周りのレベルに合わせてもらうしかない。
そう、彼女の演奏レベルが他の部員より別次元なのだ・・・!!)
氷室は、少々理不尽な説教をしているのは承知で、周りに合わせるよう警告している。
だから、余計に苛立ってしまう。

殆ど扱ったことのない木管楽器を、わずか3か月ほどで音大生レベル、いやそれ以上の演奏レベルに達している事実に、
氷室は驚きと才能に羨望を感じていた。そして、この一人の女子生徒が彼の脳内を支配しつつあった。
ふと、この間の夜遅い時間に、彼女と葉月が一緒に歩いていた夜を思い出した。

「・・・とにかく、君は、何かと目立ちすぎているということだ。何事に於いても謹んで行動することを心掛けなさい」
「・・・はい」
相変わらず、理解していないのかポカンとした表情だ。


スパルタな練習と緊張感だらけの氷室の指導と夏の暑さとで、吹奏楽部員の疲弊が加速する合宿日の折り返し地点の中日。
に夕食当番が回ってきた。

さて、何を作ろうかと悩むところだが、ある程度の材料費を使える事を鑑みて、は、ラグーのパッパルディッレを作ってみることにした。
単なるミートソースパスタだが、合宿のストレス解消もあり、物理的に普段は家で出来ない料理に挑戦した。
手打ちでパッパルディッレを作り、ラグーソースは和牛のばら肉を包丁でミンチにする。
家の食費では購入することのできない、スパイス類やハーブも買ってきた。余ったら持って帰ろう。
シーフードのマリネサラダとデザートにオレンジソースのブラマンジェを添えて提供した。

部員達はちょっとしたイタリアン料理に感激していた。普段からうっかりもので顧問に苦言を受けてばかりのを褒め称えた。
精神的ストレスの溜まっている部員達には、いい息抜きになったようだ。
だが、氷室はというと。
、合宿の食事にここまで凝ったモノを出す必要はない。領収書を見たが予算内だからと言って無駄遣いし過ぎだ」
「・・・すいません。で、どうですか? 少しは見直しました??」
「・・・問題ない」
氷室は、食事に対しては不味いとも美味いとも何も言わず、淡々とキレイに平らげてくれた。

洗い物と後片付けに手間取って、女子の決められた入浴時間を少々過ぎてしまった。
冬ならともかく、この時期に風呂に入らない訳にもいかない。は、時間外の入浴を依頼するために氷室を探していた。
「もう、どこいっちゃったのかなぁ、、、早くシャワー浴びたいんだけど・・・」
見当たらないので、とりあえず風呂場に向かうことにした。
ドアを確認すると施錠されていないようだ、電気も換気扇も着いたままだが、最後の者が消灯を忘れたのだろう。
風呂場からは、何の音もしない。
は、さっさと風呂に入ることにした。
パッと見だが、誰かが入っている形跡もなさそうだ。脱衣の跡もない。の視野の範囲ではだが・・・。
棚の一番高い場所に置いてある脱衣カゴの中に、きれいに折りたたまれた男性の衣服には全く気付いていなかった・・・。

ガラガラと浴室の引き戸を開けると、湯船に浸かった人物が振り返った。
「ああ! 氷室先生!!」
「なっ! !! 何をしているっ!!」
「わ、す、すいません! すぐ出ます!!」
「き、君は、その前に! 前を隠しなさいっっ!!!」
「きゃっ」
は慌てて持っていた手拭いで身体を覆った。といっても、手拭いくらいではあまり隠れていないのだが。
氷室の方もすっかり慌てて、声が裏返っている。
「私が、すぐに出る! 君はどこかに隠れていなさい」
とはいうものの、あまり広い脱衣所でもない。氷室と入れ替わる時は、お互いどーしても裸が眼についてしまう。

うれし恥ずかし(?)で、浴室の入れ替えがどうにか無事済んだ。
氷室は着替えながら、にこう言い放った。
「風呂が終わったら、すぐに談話室にくるように!」
苛立ちと怒りの混ざったアルトボイスに、ああ、またお説教だと、はため息を吐いた。
お互い裸を見られた事実に関しては、氷室ほど気にはならないようであった。




合宿も終わり、氷室は日頃の練習不足その他もろもろを、部員達に説教して幕を閉じた。
帰り際、氷室はに声をかけた。
、あの事は、決して口外しないように・・・!」
「・・・あの事?」
「だからだな、その、、、、」
「ああ、、、はい。先生って意外に筋肉質なんですね。肌は白いけど」
「馬鹿者!!」
氷室が思わず大声をあげると、部員達が振り返る。
「・・・・・・コホン、君には恥じらいと・・・・・・もう良い・・・」
「・・・じゃあ、帰りますね。お世話になりました」
何事もなかったような、天然な彼女を見ていると、これからどう扱っていいものかと氷室は途方に暮れた。