Teacher'sPet-先生のお気に入り-

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先生のお気に入り(設楽編)

プロローグ

「なあ、・・・」
 タキシードに身を包んだ青年が、付添いの女性に声をかけた。彼の名は設楽聖司。遅咲きのピアニストで、今日の公演がデビューになる。
フランスの名門老舗オケのリサイタルで、プログラムの内2曲を担当することになった。パリに所在する、名門のコンサノレバトワーノレを首席で飛び級卒業し、
世界的なコンクール、ショパンコンクールのピアノ部門で、最年長で優勝した。経歴には申し分ないが彼の場合、他のピアニストと呼ばれる者に比べスタートが遅かった。
演奏家の世界なら、彼の年齢でデビューできるのはごく稀で珍しい事だ。普通は幼少の頃からレッスンに明けくれ、音楽学生時代にコンクールなりで実績を作ってプロの演奏家になるのが定石だ。
だが、彼の場合、事情、といっても本人の心の問題だったのだろうが、約10年、聖司はピアノから離れていた。
「聖司さん、緊張してるの?」
「なんで俺が緊張なんかするんだよ。俺が、こうしてピアニストでデビューできたのも、お前のおかげかなって・・・」
 彼がを抱き寄せる、そして彼女の肩に顎を乗せる。
「感謝してる、、、本当に・・・」
「聖司さん・・・」
「よしっ!行ってくる」
そろそろ出番が来たようだ、彼はに満面の微笑みを浮かべ、楽屋を出ていった。自分もそろそろ客席に移動しなければ。
彼の初公演、一音足りとも聞き逃したくない。
移動しながらは思った。笑顔・・・、そういえば、彼の心からの笑顔は、が卒業式を迎えた日からのような気がする。
それまでは、暗い過去、悲しい過去からもがいて抜け出せないでいたから。
暗くて深い海底にずっと眠っていたような、が高校生の頃のことだ。
でも、彼が順風満帆にピアニストを目指していたら、と出会うこともなかったのだから。あの出来事があったから、こうしてと一緒にいられる訳で。
メビウスリングみたいな堂々巡りな過去を、は思い出していた。

そう、彼との出会いは、がはばたき学園に入学した時の事ーーーー









 父親の仕事の都合で、居住先を転々としていたは、子供の頃に住んでいた、はばたき市に再び住むことになった。何とか編入試験も無事パスした。
そして、様子がすっかり変わってしまった幼馴染の桜井兄弟とも再会を果たした。
 入学式も滞りなく終わり、自分のクラスに行く。知り合いといえば桜井兄弟くらいなので、やはり彼らと同じクラスになれなかったのは、少々残念である。
はば学は中等部からのエスカレーター組が殆どで、周りは知った者同士だが、はこのクラスで唯一の新参者だった。

(う〜、知り合いが一人もいない・・・あ、担任の先生が来たのかなー)
 教室のドアが開いた、そこに入ってきたのは、中肉中背でふわっとしたくせっ毛の綺麗な顔をした青年だった。
アーガイルのベストにスラックス、教師なのにスーツじゃないんだ。
エンジ色のネクタイを、仕方ないから付けていますといった感じで、襟元のボタンを外している。
そして、その表情は眉間に皺を寄せ、面倒くさいと顔に描いてあるようだ。
「・・・ 俺が、このクラスを担当する、設楽聖司だ。担当教科は英語、俺は面倒な事は嫌いだ、くれぐれも問題を起こさないように」
 何か質問はあるか?」
「はーい、先生、彼女はいますかー?」
 毎年お決まりであろう質問が、女子生徒からあった。
「お前らに答える義務はない。次」
「何だよー、ケチくせぇ」
「そうだよー」
クラスの生徒がやじり始め、騒がしくなった。
「何だよ!関係ないだろう! お前ら何しに学校来てんだよっ」
「ムキになってる〜、やっぱいるんじゃない」
「イケメンだもんね」
 クラス中が盛り上がっている、この人は、旨く躱すという話が苦手らしい。案外その辺りは不器用で要領が悪いのかもしれない。
「あー、うるさいぞっ!お前ら!静かにしないとーーーーあ、」
ガラガラとドアの開く音がした。
「静かにしなさい!」
長身の男性が入ってきた。設楽より10センチ近くは背が高いだろうか、チタンフレームのメガネをかけた紳士だ。
彼の方が声が落ち着いているのか、同じアルトボイスでも、何か説得力がある。生徒達は一瞬で黙ってしまった。
「コホン、学年主任の氷室だ。君らの数学も担当することになる」
「君たちは高校生としてのーーーーーーーーーーーーーーーー」
小言が終わると、生徒たちを一瞥した。
「設楽先生、ちょっと・・・」
「はい・・・」
二人は教室から出て行った、が、すぐに設楽だけ戻ってきた。
「ったく、お前らのせいで俺が怒られたじゃないかっ!」
(何だか、機嫌が悪そうでムスっとした感じの先生だなあ、、、)


 が入学してからの4月末のことだった。吹奏楽部に入ったは、氷室の厳しい指導にも耐えながら、授業にも何とか付いていき、問題なく平凡な毎日をおくっていた。
クラスは違うが、仲良しの女の子の友達も二人できた。桜井兄弟の他に、生徒会長の紺野、同じクラスの不二山とも接点ができた。
 
 帰りのホームルームの時だった。
「今週末、課外授業をする。氷室先生のご厚意で、、、俺は別に厚意とも思ってないが、クラシックのコンサートに行く。参加希望者は挙手しろ」
このクラスでは3,4人が手を挙げている。も吹奏楽をやっているので、勿論、手を挙げる。
「じゃあ、今手を挙げたものは、今度の日曜、はばたきイベントホールエントランスへ集合--------」
設楽が詳細を話している。だが、その表情は複雑でいつもより更に機嫌が悪そうだった。
(設楽先生、クラシックが嫌いなのかなぁ・・・・・・)
 は、眉間に皺を寄せている教師を見つめた。