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先生のお気に入り(設楽編)

ファーストデート



すっかりはばたき学園での生活も慣れてきた

夏休み前の期末テストも努力の甲斐あって、100番以内の掲示にも名前を表示することができた。
といっても、後ろから数えた方が近い順位ではあったが。

カレンやミヨと一緒に過ごすことが多い生活ではあったが、
生徒会長の紺野や、桜井兄弟、不二山といった全校生徒注目の人材とも友人並みの交流はあった。
その中で唯一、メルアドも電話番号も知らないのは、担任の設楽だったが、
教師である以上、さほど仲良くなる必要性もないのだが、心の隅に、彼の過去の謎が気にはなっていた。


そんな、期末テストも終わった夏休み前の日曜日。
設楽が、課外授業の募集をかけてきた。
場所は、臨海地区のプラネタリウム。
夏休み前だからか、クラスではを入れて3人くらいしか挙手しなかった。
学年合同なので、他クラスからも何人かは来るだろうが、今回は参加人数は少数みたいだ。


集合場所の新はばたき駅には、課外授業に参加する生徒が数名集まっていた。
しかし、待てどくらせど、設楽は現れない。
「おい、先生来ないじゃん」
「またー、この前もこんなことなかった?」
今回はその場でチケット代を支払うシステム、このまま帰ってしまっても問題はないのだろうが。
さすがに1時間を過ぎると、そのまま帰宅する者、ついでだからと、ショッピングモールなり
遊びに出掛けてしまう者、何だかんだで、独りになってしまった。

「もう、設楽先生、何やってんのかしら・・・」
は、帰ってしまおうかとも思ったが、何となく帰る気になれなかった。
駅のコンコースのベンチで本を読んでいると、ロータリーの方から、中肉中背の青年が表れた。
派手な赤いポロシャツにジーンズという、どう見ても普段着な格好だった。

・・・なんでおまえだけなんだ?」
「・・・設楽先生。待ち合わせより2時間も経っているんですよ。そりゃみんな帰っちゃいますよー」
「・・・悪い。夏場の渋滞、舐めてた」
「もう、またマイカーで来たんですか・・・」
新はばたき駅界隈は駐車スペースがあまりない、止めるならショッピングモール位しかないのだ。
そのショッピングモールも時間帯によっては駐車渋滞してしまう。

「・・・。なんで、おまえ、帰らなかったんだ?」
「え、まあ、こういうの、私、意外に平気なんで。さすがに夕方まで来なかったら帰りますけど」
「悪かった・・・。冷たい飲み物でも奢ってやる。行くぞ」
「え、プラネタリウムは?!」
設楽はモール方面に、スタスタと歩いていく。は慌てて追いかける。


フードコートか喫茶店にでも行くのかと思いきや、展望台のラウンジにやってきた。
以前は空中庭園なんて設備もあったのだが、今は営業中止になっている。
一般の学生が来れるような場所ではない、は何となく落ち着かない。
「待たせた詫びだ。好きなもの頼んでいいぞ」
カフェタイムのメニューを開くと、美味しそうなデザートが目に入る。
「・・・スペシャルフルーツパフェ美味しそう・・・」
マスクメロンなどお高そうなフルーツてんこ盛りで、けっこうな値段だった。
「ふーん、じゃあ、それにしろ」
「え、でも」
設楽はさっさとオーダーしてしまった。

アイスティーと、スペシャルパフェが運ばれてくる。
設楽は、いいかとジェスチャーして、タバコに火を点けた。旨そうに紫煙を吐く。
「よかったら、先生も食べませんか?」
「俺はいらない」
「え、甘い物嫌いなんですか?」
「ああそうだ。酒の方がいい」
なるほど、酒飲みは甘い物はどっちでもいいという人が多い。
「果物なら平気だが」
「じゃあ、どうぞ。こっちのフォークは使ってないんで」
設楽は無表情のままフォークを受け取り、メロンを突き刺して口に運んだ。

聞いた事項にはそれなりに応えてくれる設楽であったが、何だかだけが喋っていたようなお茶の時間だった。



エレベーターで地上に降りて、煉瓦道の海岸通りを二人で歩く。
さすがに解散か、プラネタリウムに向かうのかと思いきや、
が抱えているアルトサックスのケースが気になったらしい。
課外授業が終わったら、煉瓦道のベンチで少し練習しようと持ってきたものだった。
設楽はに、演奏してみろと要望してきた。
「おまえ、重たいだろう。そのサクスフォンなのか、、、 いつも持ち歩いてるのか?」
「あ、今日はたまたまです。ちょっと外で練習しようかなって」
「おまえ、担当楽器なんだっけ?」
「アルトサックスです」
「ふーん、弾いてみろよ。即興で」
設楽は、近くのベンチに腰を下ろして脚を組む。
「え、今ですか?」
「ああ、せっかく持ってきたんだろ。演奏を聴いてやる」
「はあ・・・」
まったく強引である、まあ、いつものことだが。
は彼の隣にケースを置いて蓋を開く。リードを取り付けてストラップを首に掛ける。
アルトサックスの重みがずっしり来る。ただ、いざ、演奏しろと言われても、何の曲を演奏したらいいのだろう。
「先生、何かリクエストありますか? 急に言われても思いつかなくて」
「おまえの好きな曲でいいよ。ジャンルは何でもいい」
そうアバウトに言われると、ますます判らなくなってくる。
与えられた楽譜を指示通りに演奏する、そんな部活でのやり方がこういう場合は仇となる。
「・・・・・・おまえ、そんなんじゃ、音楽で食っていけないぞ。
この曲を演奏して下さいって、楽譜渡さなきゃ何にもできないんだろ。さすが、氷室先生らしい教育だ」
「・・・・・・」
たしかに、その通りではある。まあとしても演奏は好きだが、進路の一つとしては全く考えていなかった。
「ペーパームーン・・・」
「え・・・」
「これなら解かるだろ。部活で練習してるの聴いたことある」
「あ・・・はい」
最近の練習曲のひとつでもある、ペーパームーンを演奏してみた。
自分のパートは、メインメロディでは一部なのでその辺りと、副メロのアレンジパートくらいしかわからない。
何とか一通り演奏が終わる、自分からリクエストした割には拍手の一つもしてくれない。
通りがかりの人が何人か立ち止まって聴いてくれていて、彼らから、パラパラと拍手を貰った。

「・・・ふつうだな。可もなく不可もなく・・・」
「すいません、メロディラインが一部しか判らなくて・・・」
「別に自分のパート以外を演奏したって構わないと思うがな、俺は。メインメロディが奏でられないと面白くないだろうに・・・
・・・ん?」


急に空が暗くなって冷たい風が吹く。最近夏場に多い、にわか豪雨か。
「まずいな、。そこの樹の下に避難しよう」
設楽はの楽器ケースの蓋を器用に閉じ、それを手にした。そしてを幹に押し付けて、自分は彼女を覆うように接近してきた。
(ひえー、ち、近い・・・!?)
驚く間もなく、大粒の雨がバケツをひっくり返した様に降ってきた。
はたから見ると、男性が女性を襲っているように見えなくはないが、設楽のおかげでは、殆ど濡れずに済んでいる
アルトサックスに限っては、全く濡れていない。
「先生・・・ずぶ濡れですよ」
「いいんだ。サックスが濡れたら使い物にならなくなる。おまえの為じゃない、楽器のためだからなっ・・・」
(先生・・・・・・・・・よく見ると、睫長くて色白で、鼻が高くて、キレイな顔立ちだなぁ・・・)
支えてくれている上腕と胸板は、かなり逞しい。遠目にはひょろく見えてしまうのだが、近くにいると、男性らしさを感じる。
(うー、なんかドキドキしてきた・・・早く雨止まないかなぁ・・・)
やはり単なる通り雨で、5分位であっという間に黒い雨雲は向こうにいってしまった。
一気に日差しが強くなり、辺りは物凄い湿気を含んだ生暖かい空気が漂っている。

「ふう・・・」
びしょ濡れの設楽がから離れる。身体じゅうから滴が垂れている。
「すいません・・・先生」
はカバンの中から、ハンドタオルを渡す。
「いい、どうせこれじゃ足りないし。早く拭いてしまえよ、サックス」
「あ、はい」
濡れたポロシャツを絞っている、かなり引き締まった腹筋がチラっと見える。
(・・・うぅ・・・なんか、今日はドキドキする一日だなぁ・・・)
は丁寧に、アルトサックスを分解してしまう。
設楽の意外な優しさを垣間見た、7月の日曜日だった。